子どもの皮膚の特徴
子どもの皮膚は、骨などと同様に成長途中にあるため、大人よりも皮膚が薄く、免疫機能も不完全なことから、子ども特有の皮膚疾患や皮膚感染症を生じやすい特徴があります。
バリア機能が未熟
皮膚の大切な役割の一つに、外部からの刺激物の侵入を防ぐ『バリア機能』があります。皮膚の一番外側の部分である角質層は、お子様は大人の半分程度の厚さしかありません。また、角質層の表面は皮膚を乾燥や刺激から守る皮脂で覆われていますが、お子様の場合は皮脂の分泌量が不安定です。そのため外的刺激に非常に敏感で、些細なことで湿疹が生じたり細菌やウイルスに感染したりと、皮膚のトラブルを生じやすい状態にあります。
スキンケアが重要
これらの未熟なバリア機能を補い、お子様の皮膚の健康を守るためには正しいスキンケアを行うことがとても大切です。最近では、乳幼児期の保湿を中心としたスキンケアが、その後のお子様のアレルギー体質を予防するのにとても重要であることがわかってきました。 お子様のスキンケアについて相談されたい方はお気軽にご相談ください。お子様の肌状態に応じた正しいスキンケア指導をさせていただきます。
小児皮膚科でよくみられる
皮膚疾患
乳児湿疹
乳児期(生後1歳くらいまで)の間はさまざまな湿疹を生じやすく、総称して乳児湿疹と呼びます。具体的には、新生児ざ瘡、乳児脂漏性皮膚炎、アトピー性皮膚炎、接触皮膚炎(よだれかぶれ、おむつかぶれ)、汗疹(あせも)などが含まれます。皮膚を清潔に保つなどのスキンケアのみで改善することも多いのですが、なかには湿疹が改善せず外用薬による治療を必要とするケースもあります。乳児期の湿疹の存在は、食物アレルギーや喘息の発症にも関与するため、早い段階で受診してご相談いただくことをお勧めします。
乳児脂漏性皮膚炎
生後3ヶ月頃までは、お母さんからのホルモンの影響で皮脂の分泌が多くなります。脂漏性皮膚炎は、皮脂が過剰に分泌されることが原因となって発症する湿疹です。主な症状として、頭皮、眉間やおでこなどの皮脂腺が多い部分に、黄色っぽいかさぶたができたり、カサカサしたフケを生じたります。皮膚を清潔にすることが大切で、シャンプーや石鹸を使って洗髪や洗顔を行うようにします。皮脂を好む「マラセチア」という常在菌の一種であるカビの繁殖が関与している場合には、抗真菌薬の外用も行います。
小児アトピー性皮膚炎
乳幼児期から学童期に発症することが多く、痒みを伴う湿疹が良くなったり悪くなったりを繰り返します。症状を繰り返す期間が1歳未満の乳児では2ヶ月上、それ以上の年齢では6ヶ月以上の場合に、湿疹の分布などからアトピー性皮膚炎と診断します。 症状が出やすい部位は年齢によって異なり、乳児期(2歳未満)までは頭や顔、耳周りにじくじくとした湿疹がみられるようになります。皮膚が未熟な時期なため、乳児脂漏性皮膚炎などの他の湿疹も生じやすく、見分けがつかないことも少なくありません。
2歳を過ぎて幼児期から学童期になると、顔の湿疹は減りますが、首まわり、肘の内側やひざの裏側、手首・足首などに湿疹が生じるようになります。耳たぶの下が避けるような「耳ぎれ」の症状も特徴的です。湿疹はカサカサしており、引っ掻く行為を繰り返すことで皮膚がゴワゴワと厚くなってきます。
適切な治療で多くの場合は小児期に治癒することも多いのですが、思春期以降も症状が続いたり、大人になってから発症したりすることもあります。
アトピー性皮膚炎の方の多くが、遺伝子レベルで皮膚のバリア機能に障害があることがわかっています。そのため、保湿をしっかり行うことがアトピー性皮膚炎の患者様にとってとても重要になってきます。保湿に加えて、皮膚の炎症を抑える薬としてステロイド外用薬、タクロリムス軟膏(プロトピック軟膏)、JAK阻害剤(コレクチム軟膏)、PDE4阻害剤(モイゼルト軟膏)などを湿疹の治療に使用していきます。
かゆみの症状が強い場合には、抗アレルギー剤の内服薬を用います。また、光線療法も有効で、保険適応でお子様でも比較的安全に行うことが可能です。皮膚を掻く行為は、皮膚にダメージを与えることでバリア機能をさらに低下させてしまうだけでなく、痒みを感じる神経繊維が伸びてくることで、わずかな刺激でも痒みを感じてしまうという悪循環を引き起こします。光線療法は、この伸びてしまった神経繊維を後退させ、痒みを軽減させることが実証されています。
おむつかぶれ
おむつ皮膚炎とも呼ばれ、おむつをしているお子様に生じる接触皮膚炎のことです。おむつに覆われた部位は尿や便、汗によって蒸れやすい上に、おむつやお尻ふきで擦るなどの物理的刺激も加わることでバリア機能が低下し、炎症が生じやすくなっています。尿中のアンモニアや便に含まれる消化酵素などが刺激となって、患部に赤みや湿疹などがみられるようになります。治療は、おむつをこまめに変えてお尻を清潔にしておくことが大切です。亜鉛華単軟膏を用いたり、症状の程度によってはステロイド外用薬を使用したりすることもあります。また、皮膚の常在菌であるカンジダというカビが原因となってカンジダ皮膚炎を起こしている可能性がある場合には、顕微鏡で真菌検査をし、カンジダを認めた場合は抗真菌薬の外用を行います。
あせも
汗をたくさんかいた後に、汗腺という汗を排出する管が詰まってしまうことが原因であせも(汗疹)ができます。小児では大人に比べて汗腺が密集して存在していること、お子様は代謝が活発で一度にたくさんの汗をかきやすいこと、バリア機能が未熟で皮膚のトラブルを起こしやすいことから、大人に比べてあせもができやすい状態にあります。夏場や激しい運動の後、発熱した時などに大量の汗をかくと、髪の生え際、首すじ、肘の内側や膝の裏側、手首・足首などで汗腺が詰まりやすくなりあせもが発症します。
皮脂欠乏症(乾燥)
皮膚の一番外側の『角質層』の表面は皮脂で覆われていて、肌を乾燥から守り刺激物の侵入を防ぐ『バリア機能』の働きを担っています。お子様の場合は皮脂の分泌量が不安定なため、皮脂が不足して肌の水分量が保てず、肌が乾燥しやすい状態にあります。患部にかさつきや痒み、ひび割れなどがある状態は、皮膚の『バリア機能』が破綻しているため、さまざまな皮膚トラブルを生じてしまいます。最近では、皮膚からの異物の侵入が、食物アレルギーや喘息の発症に深く関与していることがわかってきました。保湿剤を用いて皮膚の『バリア機能』を保つことが、さまざまな疾患の発症予防にとても大切です。
とびひ
正式には伝染性膿痂疹と呼ばれ、黄色ブドウ球菌が原因の水疱性膿痂疹と、溶血性連鎖球菌が原因の痂疲性膿痂疹とに大別されます。乳幼児で発症しやすいのは水疱性膿痂疹で、虫刺されやあせも、湿疹のかき壊しなどから菌が侵入することで発症します。痒みを伴うじゅくじゅくした湿疹の周りに水疱が形成され、さらにその周囲に赤みを伴います。痒さでかきむしると水疱が破れ、手についた菌が周囲の皮膚につくとまた新たな水疱を形成する、といったように次々と広がっていきます。この様子が、火災が広がることに似ていることから、「とびひ」と呼ばれています。特にアトピー性皮膚炎のお子様は皮膚のバリア機能が低下しているため、とびひを発症し増悪するリスクが高いので注意が必要です。
治療は、セフェム系などの抗菌薬の内服と、抗菌薬の外用薬を使用します。かゆみが強い場合は抗ヒスタミン薬も用います。拡大を防ぐために皮膚を清潔に保ち、患部をガーゼで覆います。
水イボ
正式には伝染性軟属腫と呼ばれており、伝染性軟属腫ウイルスの感染により発症する皮膚疾患です。表面がツヤツヤした直径1~3mm程度の、肌色または淡いピンク色のイボが生じます。特にバリア機能が低下している乾燥肌やアトピー性皮膚炎のお子様に多くみられます。皮膚が接触することで感染するため、夏季に発症しやすい疾患です。プールの水ではうつりませんが、ビート板やタオルを介してうつることがあるので共有は避けます。
半年から数年かけて自然に治癒することもありますが、経過が長く、お子様の場合はいじってしまうことで範囲が広がることが多いため、当院では積極的に治療をすることをお勧めしています。基本的には麻酔テープを用いてピンセット(トラコーマ攝子)で水イボを摘まんで取ります。処置が難しいお子様には、水イボクリームの処方も行っております。
イボ
正式には尋常性疣贅と呼ばれており、HPV(ヒトパピローマウイルス)が皮膚に感染することで発症します。皮膚のバリア機能が未熟なお子様にみられやすい疾患で、主に手足やひざ、足底に発生し、数は単発のものから多発するものまで様々です。自覚症状がないものが多いため放置されがちですが、放置するとイボが増えてしまうことがあるので注意が必要です。
治療は液体窒素でイボを壊死させる凍結療法が一般的です。難治性のイボに対しては、SADBE療法や炭酸ガスレーザーによる焼灼術などの治療を行なっている病院をご紹介させていただきます。
手足口病
口の中や手のひら、足の裏、膝や肘、お尻に小さな水疱を生じる感染症です。コクサッキーウイルスやエンテロウイルスなどの感染によって発症します。手足の水疱にはかゆみ・痛みなどの症状が現れにくいのですが、口の中にできた水疱は破れると痛みを生じ、飲食が困難になることがあります。発熱をみとめることもありますが、多くは数日で自然に軽快します。しかし、稀に髄膜炎や脳炎など重篤な合併症を引き起こすこともあるため注意が必要です。
大半は5歳以下の乳幼児に発症しますが、近年では大人が発症するケースも増えています。乳幼児が集団生活をしている保育施設や幼稚園などでは集団感染が起こることがあります。
治療は対症療法となり、熱には解熱剤、痛みには鎮痛剤を処方します。